更新日:2015年1月27日

cakesやnoteを始めた理由と今後について ── JEPAセミナーレポート

ースオブケイク代表取締役CEO加藤貞顕氏

日本電子出版協会(JEPA)は1月27日、ピースオブケイク代表取締役CEO加藤貞顕氏を講師に迎え、「cakesやnoteをはじめた理由、目指すもの」と題したセミナーを行いました。以下、そのレポートです。



ピースオブケイクと加藤貞顕氏について


ピースオブケイクは2011年11月の設立。現在社員は24名で、あと何人かインターンもいるそうです。半分以上が開発で、編集者にはフリーライターだった人もいれば版元の人もいるとのこと。サイバーエージェントベンチャーや、新生銀行などから出資を受けています。

加藤貞顕氏は2000年にアスキーへ入社。インターネットに押され雑誌が凋落していくのを、いち早く体験することができたそうです。2005年に退社してダイヤモンド社へ。書籍編集者として『もしドラ』などを手がけます。


『もしドラ』は販促のために、アニメ(NHK)、マンガ(集英社)、映画(東宝)など、さまざまなことをやったそうです。電子書籍は、iPadが出たばかりのころなので、当時は App Store のアプリ形式ブックが主流でした。

まだ売れ線の本がほとんど電子化していないころというのもあり、話題性もあったおかげで17万ダウンロードされたとか。余談ですが、加藤氏は学生時代にLinuxを使って、オープンソース活動に燃えていたころがあったそうです。

ただ、この時の経験(詳細は質疑応答時に)から、「電子書籍だけをやると、出版は行き詰まってしまうのではないか?」とも思ったそうです。

磯崎哲也氏と原永淳氏

ピースオブケイクを設立したきっかけは、まず磯崎哲也氏と出会ったことだそうです。まだ当時ダイヤモンド社の社員で、独立なんてぜんぜん考えてなかった頃に、こんな話を磯崎氏としたとか。

加藤「電子化するうまい仕組みないとマズイっすよねー」
磯崎「加藤さんやればいいじゃない」
加藤「お金ないし」
磯崎「そんなの市場で調達すればいいんですよ!」

↓ちょうどその頃、磯崎氏が出した本。


もう1人、技術担当の原永淳氏との出会いも大きかったそうです。原永氏は Yahoo Japan がまだサーバー数十台レベルのころにトップページを担当していた方で、加藤氏と友人になった頃にはフリーランスでいろんなサービスを作っていたとか。

加藤「出版とかコンテンツを新しく流通させる仕組みを作りたいから手伝って」
原永「いいッスよ」

……なんという軽いノリ。

原永氏が加わってから本格的な開発が始まり、cakesがリリースされたのが2012年9月。ちなみに私はリリース前に磯崎哲也氏のブログ経由で知り、「有料メルマガへのアンチテーゼ」だという考察をしています。



cakes」について


cakes

cakesの発想の原点は、「今後、すべてのコンテンツはWebにのるのでは?」というところだったそうです。Webでコンテンツを売るにはさまざまな方法があるけど、加藤氏は「雑誌」のような集合的なコンテンツを配信する「場」が欲しいと考えたそうです。

例えば菊池寛氏の文藝春秋は、まず雑誌からスタートしました。同じように、Webでも集合的なコンテンツを配信する「場」が重要な役割を果たすだろうという発想だったとか。

Webでコンテンツを売る難しさ(当時)


加藤氏がcakesを作る時に、Webでコンテンツを売る難しさには以下のようなものがあると考えたそうです。

  • デバイスの制約
    • パソコンは事務機だから、パソコンで見ると面白いものも面白くなくなる
    • ただし、スマートフォンやタブレットの普及は時間の問題だと思っていた
  • 課金の制約
    • 少額課金が難しかった
    • いまはもう、ほとんど障壁ではなくなった
  • クリエイター側の心理的障壁
    • 「コピーされるのが怖い」心理は、まだある(出版社にも)
    • ただ、若い人にはほとんどない
  • 消費者側の心理的障壁
    • 「紙じゃないと嫌」という人もだいぶ減ってきた

最近だと、コミックスは電子書籍が普及して売上が伸びてきているほどで、数年でずいぶん状況が変わったなーと思います。


cakesは雑誌に似たコンテンツ配信プラットフォーム


cakesは週150円(月500円)のコンテンツ配信プラットフォームです。誰でも書けるプラットフォームというわけではなく、書き手はcakesの編集部が選び、編集・校正もしています。出版社が配信しているコンテンツもあります。

売上の60%をクリエイターやコンテンツホルダーに配分しています。これは、Webに書いても美味しくないという状況では、良いコンテンツが集まらないという思いからとのことです。PV比率で配分されるため、過去の記事が突然バズっても収益になります。それは作者自身が自分で告知をするモチベーションにもなります。期間限定無料を設定して、有料へ誘引したりといったことも可能です。

「悪口」はやらないことにしているそうです。というのは、無料ならともかく、有料で購入したコンテンツなら、読んで幸せになりたいだろうという思いがあるからだそうです。

1つの記事は3分以内で読める程度にしており、難しい物はより短くという傾向になっているそうです。これは、スマートフォンで細切れで読むことを想定しており、長いものは連載にしています。「新聞小説と同じです」という説明は、なるほどと思いました。

いまはスマートフォンで読んでる人のほうが圧倒的に多く、読むことを習慣にするためプッシュ通知を送るようにしているそうです。


cakesから出たベストセラー





堀江貴文氏の『ゼロ』は、cakesでの連載後に本を出しているのですが、いまでもcakesで全文が読めるようになっているそうです。「売れなくなっちゃうんじゃないか?」と心配する人もいるそうですが、cakes経由だけでも数百部は売れており、むしろ販促に繋がっているとか。取材過程をニコ生で配信したり、イベントをやったりと、マーケティングも一緒にやってるそうです。

ここに並んでいるベストセラーは加藤氏の出身であるダイヤモンド社ばかりですが、いろんな版元と組んでいるそうです。組み方も以下のようにいろいろです。

  • cakesで連載 → 単行本化
  • 単行本化を前提にcakesで連載
  • シリーズの一部をcakesに掲載
  • 著者インタビューを掲載

例えば紙の『SFマガジン』が、従来の月刊から隔月に変わりますが、そのあいだを埋めるため「SFマガジンcakes版」の配信が始まったりとか。

ただ、こういう組み方は担当者ベースで「なんとなく頼まれてはじめる」というのが多かったので、今後はちゃんとメニュー化していこうと考えているそうです。近々説明会をやるそうですよ。


note」について


note

cakesとnote、なぜ2つやっているのか? というと、cakesが雑誌的なのに対し、noteは個人のメディア(=本)という位置づけなのだとか。Webでコンテンツを配信する形はいろいろあるけど、別にnoteは電子書籍と敵対するものだとは思っていないそうです。

  • かんたんに記事がつくれること(ブログでも難しい)
  • カッコいいこと(Instagramの成功要因)
  • 簡単に記事が売買できること
  • ファンとつながることができること

この4つがポイントだそうです。本の編集者をやっていて辛かったのは、1つヒットしても次の本が売れるとは限らないことだったとか。それは出版社も著者も、ファンとつながってないからだ、と。だからソーシャル要素を盛り込んでいるそうです。

現在、月間2000万PV(モバイル65%タブレット10%)、平均滞在時間3分、男女比はほぼ半々、55万4000点のノート、2万1135点のマガジン。ノートの有料比率は6.7%と意外に低く、無料配信の比率がかなり多いそうです。その他、以下のような特徴と、今後の予定について触れられていました。

  • 手数料は決済手数料(キャリアだと15%)を引いた後の10%
  • 買った記事はメールでも届く(作者が消しても、メールで見られる)
  • 誰が買ったか分かるようになっていて、作者からお礼も送れる
  • 最近追加された「投げ銭」機能は、会員増に比例してそれなりに利用されている
  • ケータイキャリア課金に対応(auとソフトバンク。docomoはまだ)
  • ハッシュタグが使えるようになったので、コラボレーション企画をやりたい
  • いまは一部の会員にだけ提供されている「継続課金」機能を、近々一般開放する予定
  • 物も売れるようにしたい

noteから生まれたスターの事例


山本さほ氏が紹介されました。『岡崎に捧ぐ』は、なんと1カ月で1000万PVあったそうです。最近、ビッグコミックスペリオールで連載が始まり、2号連続巻頭カラーという破格の扱いだとか。



他には、ロッキング・オンの橘川幸夫氏、くるりofficial、田中圭一氏、サイゾー、週刊女性、スペースシャワーTVなどが紹介されました。


需要曲線で考える


最後に、なるほどと思った話。出版の需要曲線は以下の図のように、販売価格で売れる量がだいたい決まってしまうそうです。1500円なら5万部、みたいな。

需要曲線と出版


ところが映画の場合は、映画館、DVD、ブルーレイ、レンタルと、さまざまな手段でお金を払ってもらうので、以下の図のように階段状になっているとか。

需要曲線と映画の配信方法


もちろん出版にも「単行本」と「文庫本」というやり方はありますが、映画に比べたら階段は少なかった、と。お金を払ってもらう手段がいろいろあれば、濃いファンはたくさん払ってくれるし、薄いファンは薄く関わることもできる。ただ、アナログの世界では薄い部分が費用的な問題で難しかったのが、デジタルの世界ならできる、と。

ピースオブケイクがやろうとしているのは、以下の3つだそうです。

  • コミュニケーション
  • マーケティング
  • クリエイティブ

加藤氏は、この3つが一体になった場所が「未来の本」「未来の雑誌」「未来のレーベル」になるのではないだろうか、と結びました。


質疑応答


質問:従来の出版の延長ではない? 出版に変わる場所として考えてる?


僕自身はコンテンツを作る側でもあり、プラットフォームの運営者でもある。コンテンツを作る人間からすると、最大のライバルは恋人からのLINE。それはコンテンツの作り手みんなが突きつけられている問題。紙だけだとあまりに不利で、電子書籍だけでも足らないから、Webをやっているという感覚。もともと版元にいて、本を作るのが好き。おもしろいものはたくさんあるのに、売れないのが悔しい。出版業界の課題をこれで解決しようとも思っているし、本の枠組みを超えた新しい面白いことをやらないと恋人からのLINEに勝てない。

質問:これだけのデータベースをどう処理している?


Amazon AWS+MySQLで、システムは自社開発。エンジニアたちが新しい技術を楽しんで使ってる。「どうやるべき?」という意味では、大手以外は自社でやらなくなるのではないか。自社でやるのはすごく大変だから、僕らとしては「ウチを使って」。

質問:パブラインがバラバラ。どうやって統一?


リコメンドシステムをどう作る? という話。スマートニュースみたいな。統計学の西内さんにコンサル入ってもらってる。スマホの閲覧データから、どの時間にプッシュするのが効果的か、みたいなことをやっている。今後そういう仕組みがビジネスとして育っていくだろう。広告と同じ。自社でやるのは大変。

質問:Amazonしか情報持ってないのは健全じゃないですよね?


広告の世界はそれなりに民主的。コンテンツもそうなるといいとは思う。


質問:noteのPVなどは明かしてくれたが、cakesは?


有料会員向けコンテンツだから、無料と比べられるのが辛いから明かしていない。まあ、月間数百万レベルです。


質問:クリエイターとしてユーザーをどう獲得していくのかも重要だが、マーケティングはどう考えてる?


マーケティングに力を入れ始めたのは最近。とり込みたい層はぜんぶだけど、力を入れてるのは20代〜30代。cakesは「本が好き」な人が多いが、noteはクリエイターが多い。音楽、マンガを特に増やしたい。イラストコンテストやろうかな。


質問:noteはコンテンツの売り場だけど、AppleやGoogleのような「場」が無い。探しに行くのが大変。ポータル的な場所を持たないのはなぜ?


アプリにはちょっとある。いまは不親切なのは自覚してる。半分はあえて。ランキングはやらない。特にこういうCGMでは、ランキングで場全体の面白さに上限ができてしまう気がする。ランキングに寄り添った投稿が増えちゃう。ランキングの1位から10位まで「俺TUEEEEE系」で埋め尽くされちゃったりとか。

ダイヤモンド社時代、AppStoreで売り始めた時に「このままプラットフォームに握られるとえらいことになる」と思った。ランキングに入らないと売れないから、どうやってランキングに入るか? だけの競争になってしまう。

ランキングに入る一番いい方法は、値下げ。みんながそうやると、コンテンツの販売価格が限りなくゼロに近付いていくだろうと思った。プラットフォームに握られランキングで勝負するのは辛い。コンテンツを見つけるための仕組みはいろいろ考えてるけど、ランキングはやらない。


個人的な要望


noteが出てすぐに、こんな記事を書きました。


「残念ながら無名の新人がいきなりスターダムになることは、まずあり得ないサービス」と書いてしまってますね。ごめんなさい。山本さほ氏のような事例が生まれたのは、素晴らしいことです。ただ、山本さほ氏のような事例は、奇跡的なことだったようにも思います。

TwitterやFacebookと同じく、noteも徹底的にフローなんですよね。とにかく、投稿がどんどん流れていってしまう。「マガジン」である程度ストック的なこともできるようになったけど、まだ足らないと感じています。

特に、簡単にブログへ貼れるウィジェット的なものは、開始当初から欲しいなあと思っていたのですが……上に貼った山本さほ氏のみたいに、Twitterに流してから貼ればいいんですけど。

[posted by 鷹野 凌

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