NPO法人化1周年を記念して2014年発行の『月刊群雛』電子版をすべて200円(税別)に!

日本独立作家同盟は5月26日、NPO法人化から1周年を迎えました。日頃のご愛顧とご助力に、心より感謝いたします。NPO法人化1周年を記念して、2014年発行の『月刊群雛』電子版をすべて200円(税別)に値下げしました。ぜひこの機会に、過去の『月刊群雛』を振り返ってみてください。

小説『鼠の家』が『月刊群雛』2015年12月号に掲載! ── 作品概要・サンプルと矢樹純さんインタビュー #群雛

『月刊群雛』2015年12月号

『月刊群雛』2015年12月号には、矢樹純さんの小説『鼠の家』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプルとインタビューをご覧ください。





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作品概要


 父の四十九日の法要を終えた夜、「私」は母親の異様な行動を目撃する。雨の降る中、母はなぜか、家の屋根に登っていた。
 母にその理由を問い質してもはぐらかされるが、「私」は母の行為が、十年前に実家を出たままとなっている妹と関係しているのではないかと考える。妹は五歳の時に父によって引き取られてきた養女で、父の初恋の女性の娘だった。
 片づけが得意で《始末をつける》ことにこだわりを持つ母と、その母にしつけられた「私」は、家族の中で起きた問題にどう対処したのか。母と娘の思惑が交錯する様を描く。


── 父の法要を終えた夜の、母の異様な行為

鼠の家


「ねえ、どうしてあんなことしたの」
 できるだけ柔らかく尋ねたつもりだったが、返事はなかった。
 母は身を縮めてうつむいたまま、黒く汚れた手をタオルで拭っている。茶箪笥の上に置かれた時計に目をやると、午前一時になろうとしていた。
 和室に立ち込めた線香の匂いに、雨の匂いが混じっていた。ぱらぱらと水粒が庭木を叩く音が、かすかにしている。母を連れ戻した時に、縁側のサッシを閉め忘れたようだ。
「戸、閉めてくるから、ちょっと待ってて」
 母はかすかに頷いた。立ち上がったついでに、座椅子の背に無造作にかけられていた黒いワンピースをハンガーに吊るす。
 客間のテーブルはひと通り片づいているが、栓抜きやおしぼり、割りばしの紙袋があちこちに散らばっていて、グラスの形にいくつも丸い跡が残っている。仕出し料理の空き皿やビール瓶は、部屋の隅に集めたままになっていた。様子を見に来て良かった、と思う。
 母は昔から、きちんと始末をつける人だった。
 出したものは、仕舞いなさい。汚れたものは、拭きなさい。要らないものは、捨てなさい。片づけるということは、責任を取るということなの。
 臨床検査技師として忙しく働き、二人の娘を育てながらも、家の中は整頓され、いつもきれいに保たれていた。入院した父を毎日のように見舞っていた頃も、そうして看取った日も、この家が乱れたことはなかった。
 口には出さなかったが、やはり母は、動揺していたのだ。

「なんではるかに会わせてあげなかったのよ。兄さん、あんなに可愛がってたのに」
 昼間、四十九日の法要を済ませたあとの会食の席で、叔母が放った一言。
 発端は、父の思い出話だった。まだ小学校に上がる前の妹の遥に、父はよくおかしな冗談を吹き込んで怯えさせたのだ。この家の屋根裏や縁の下には、鼠がいっぱい住んでいるんだ、なんて話を。遥は、お母さんがお掃除してるのにそんなはずないと泣き出した。参列してくれた従兄弟達がそんな他愛のない話をしていたところで、叔母が母に噛みついた。以前から、自分より学歴の高い母を目の敵にしている人だった。
「しょうがないじゃない。出てってから、ずっと連絡が取れないままなんだもの」
 取り成そうとしたが、私の顔も強張っていただろう。十年前、遥がこの家を出ていった原因は、私にあった。
「高校出たばっかの女の子が、そんな遠くに行けるはずないのに。どうせ真剣に探そうとしなかったんでしょ。あんた達、遥だけ血が繋がってないからって、ずいぶん辛く当たったそうじゃない」
 意地悪く笑いながら、叔母は空になったグラスを母の方へ突き出した。無表情でビールを注ぐ母の手が震えていた。

※サンプルはここまでです。


矢樹純さんインタビュー


矢樹純

── まず簡単に自己紹介をお願いします
 漫画原作者の矢樹純(やぎ・じゅん)です。
「ビッグコミックオリジナル増刊」(小学館)にて『あいの結婚相談所』を連載中です。
 2012年に第10回「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉に選ばれた作品が宝島社から刊行され、一応作家としてもデビューしております。

 これまで発売された作品は、漫画原作では『あいの結婚相談所』1~2集(小学館)、『禁忌 絶対にやってはいけない13のこと』(秋田書店)、『女囚霊 塀の中の殺戮ゲーム』(小学館)、『イノセントブローカー』(小学館)、小説ではデビュー作である『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』(宝島社)、そして今年の8月末にKindleストアで発売した長編ミステリー『がらくた少女と人喰い煙突』です。
 漫画原作、小説ともに、ミステリー、ホラー、サスペンス作品を主に書いています。

※プロフィールの似顔絵は漫画家の青野春秋(あおの・しゅんじゅう)先生に描いていただきました。

◆公式サイト:
http://www.yagi-no-ana.com/
◆矢樹純のブログ:
http://d.hatena.ne.jp/ieyagi/
◆矢樹純のTwitter:
https://twitter.com/yagi_jun/

── この作品を制作したきっかけを教えてください
 某出版社でミステリーの短編集の企画が進行中で、そのために十作品ほど短編を書きました。
 その中から「使える」作品を選んで単行本にするのですが、この作品は他の作品と設定が似ているという理由で「使わない」ということになり、行き場を失ってしまったため、この場を借りて発表させていただきました。

── この作品の制作にあたって影響を受けた作家や作品を教えてください
 ミステリーではありませんが、桜木紫乃(さくらぎ・しの)先生の『ホテルローヤル』です。
 それまでほとんど短編を書いたことがなかったのですが、『ホテルローヤル』を読んで、短編作品の持つ力と、その密度に圧倒されました。自分もこんな作品を書けたらと思い、現在勉強中です。

── この作品のターゲットはどんな人ですか
 特にターゲットは定めずに書いていますが、片づけが好きな方には共感して読んでいただけるのではないかと思います。
 ちなみに自分は、片づけは好きですが苦手です。片づけようと手に取った漫画本を読みふけって、気づけば夕方になっているタイプです。

── この作品の制作にはどれくらい時間がかかりましたか
 仕事と家事と育児の合間を縫って二週間ほどで書き上げました。

── 作品の宣伝はどのような手段を用いていますか
 主にブログとTwitterです。Facebookページも利用しています。

── 作品を制作する上で困っていることは何ですか
 本業として漫画原作の仕事があり、さらに小学生の子供が三人いるので、小説を書く時間を確保するのに困っています。漫画を読む時間や夜にビールを飲みながら映画を観る時間は削れないので、本当に困っています。

── 注目している作家またはお気に入り作品を教えてください
 沼田まほかる(ぬまた・まほかる)先生が大好きです。新作を心待ちにしています。

── 今後の活動予定や目標を教えてください
 今の漫画原作の連載の他には、ホラー漫画の新連載の企画が進行中なのでそちらのシナリオと、ミステリーの短編集の出版に向けて原稿の修正作業をしています。
 小説の方はまだ相当直さないと本には出来ないレベルなので、先は長いですが頑張ってまいります。

── 2015年に読んだ書籍ベスト3を教えてください
 三作品も選べなかったので、一作だけですみません。

・『その女アレックス』 ピエール・ルメートル
http://www.amazon.co.jp/dp/B00PLGP9HM/
 物語そのものの面白さも抜群ですが、主人公の刑事のキャラクターが自分の趣味にぴったりで、完全にはまりました。今の仕事が終わったら『悲しみのイレーヌ』を読むつもりで買ってあります。


── 最後に、読者へ向けて一言お願いします
 短編がお気に召しましたら、Kindleストアで発売中の長編ミステリー『がらくた少女と人喰い煙突』も、ぜひ読んでみていただければと思います。漫画を読まれる方は『あいの結婚相談所』、『女囚霊』など、漫画作品の方もぜひ(Kindle版も出ています)。
 感想などいただけましたらとても嬉しいです。



矢樹純さんの作品が掲載されている『月刊群雛』2015年12月号は、下記のリンク先からお求め下さい。誌面は縦書きです。




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