灰野蜜さんの小説『鳥籠の肖像』が『月刊群雛』2016年03月号に掲載! ―― 作品概要・サンプルなど

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『月刊群雛』2016年03月号

『月刊群雛』2016年03月号には、灰野蜜さんの小説『鳥籠の肖像』が掲載されています。これはどんな作品なんでしょうか? 作品概要・サンプルなどをご覧ください。

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作品概要

 私の幸福は、彼女を絵画に閉じ込めることでしか成立しないと思っていた――。

 高校生活最後の日。卒業式を目前に控え、はしゃぎあっているクラスメイトたちに馴染めない弓は、息継ぎを求めるように朝の陽射しが差し込む校舎の片隅へと向かう。捉えどころのない気持ちを持て余す弓。そんな彼女を探してひとりの少女が現れる。この古い学舎での時を共に過ごした掛け替えのない友人、映子だ。弓はこの場所でうつくしい彼女の笑顔を目にするたび、彼女を鳥籠に閉じ込めるように、絵の中に閉じ込めてしまいたいと願っていた。

 古い窓硝子ごしに降り注ぐ、柔らかな早春の日差しの中。卒業という別れの時を目前に、揺れ動く少女たちが繰り広げる儚い一幕。

―― たとえ変わってしまったとしても

鳥籠の肖像

 第二音楽室へと向かう階段は、本館二階の踊り場から丁字に分岐し、三階へ向かう本階段よりもやや低い段を七段上った先で折れ曲がる。約六十年前に為された校舎本館建て増し工事は、特別教室を何故か曲がり角の奥に据えてしまい、結果として現在に至るまで新年度名物の迷子の新入生を生み出し続けている。あとひと月もすればまた、音楽の教材を腕に抱えてうろうろと廊下を行ったり来たりする、真新しい制服を身にまとった新入生の姿が見られることだろう。彼女たちを見るたびに自分が新入生だった頃を懐かしく思うのがこの数年の慣わしだった。だが、私がそんな光景を見ることはもうないのだと、人の気配から遠い階段を降りながら今更のように思う。

 クラスメイトたちは教室の至るところで目の合う相手と手当たり次第に写真を撮っていた。創立百年を超える由緒正しき私立女学校、とはいえ、通っているのは勿論現代を生きる女子高生たちだ。おまけに、今日は高校生活最後の日である。その賑やかさも当然と言えば当然のことだろう。
 誰かが教室に現れる度、誰かがその名を呼んで駆け寄り、抱き合ってはしゃぐ。普段制服の白い丸襟の下では蝶々結びの臙脂色のリボンが羽を休めているが、入学式、卒業式などの特別式典では白のネクタイを装用するのが決まりである。クラシックな濃紺のワンピースの胸元に一番相応しいバランスを模索して、ああでもないこうでもないと教室の片隅で結び合いをしているものたちもいた。最初に誰が書き始めたのか、黒板はいつの間にやら色とりどりのチョークで書かれたメッセージで埋め尽くされ、格好の撮影スポットになっている。中央に一際大きな文字で書かれた『卒業おめでとう』の文字は、文化祭の飾り付けのようにとても楽しげだ。
「弓も一緒に写真撮ろうよ」
 自分の席で頬杖をつきながらぼんやりとそんな彼女たちの様子を眺めていると、クラス写真を除いては今まで一度も同じフレームに収まったことのないクラスメイトに、そう声を掛けられた。どうして? という言葉が喉元まで出掛かったが、私の返事を待たずに彼女は別の生徒に「ねぇ、弓と写真撮って」と依頼している。撮影者が見つかると彼女は腰を屈め、私の顔の横に自分の顔を並べてきた。格好だけならば随分親しげな間柄に見えることだろう。カメラを持った生徒に請われるままに笑顔を浮かべると、掛け声の後にシャッターの落ちる微かな音が聞こえた。
「弓のカメラは? そっちでも撮ってあげるよ」
 当然私も撮るものだと思われているのだろう。撮影係を務めた生徒が、当たり前の仕草で手を差し出す。
「あー……。持ってきてない」
「スマホ?」
「うん、まぁ」
 歯切れの悪い私の言葉と動く気配のない右手に、彼女たちの間で不思議そうな空白が落ちた。しかしそれも、扉の開く音によって瞬きの間に霧散する。

※サンプルはここまでです。

作品情報&著者情報

灰野蜜(はいの・みつ)
灰野蜜(はいの・みつ)

◇自己紹介◇

 灰野蜜という筆名で活動しています。
 少女や花、天体や鉱石などうつくしいと感じるものをモチーフに、閉じた世界で物語が展開する箱庭的な小説を書いています。
 今までは主に文学フリマや関西コミティアにて手製本の作品集を販売していましたが、今後は電子書籍やウェブ上でも作品を公開してみたいと思っています。どうぞお見知りおき頂ければ幸いです。

◆ブログ:ひとさじの砂糖とうたかたの日々の泡
http://scfedxxxx.hatenablog.com
◆Twitter:
https://twitter.com/scfedxxx/

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